[危険な梅毒実験①]40年以上騙し続けたタスキギー梅毒実験

近年日本では、梅毒という性感染症が増加傾向だ。

もし梅毒を発症してしまうと、赤い発疹やしこりが出る。

早期発見によって完治することもできるが、妊婦が感染してしまうと赤ちゃんが死んでしまう危険性がある、

そんな梅毒だが、昔から多くの人々を悩ませ続けたこともあり、様々な研究が進められていた。

しかし、その中には非倫理的な人体実験も紛れている。

今回はその中でも特に有名な「タスキギー梅毒実験」について紹介する。

非人道的なタスキギー梅毒実験とは

タスキギー梅毒実験とは、タスキギー大学が1932年から40年間行われた実験のことだ。

名前通り梅毒に関する研究であるのだが、その内容が非常に悪質だった。

この実験では「治療されなかった梅毒の経過状況を調べること」が目的だったため、梅毒患者である黒人を治療目的という嘘の内容で被験者にさせたのだ。

もちろん、梅毒の経過状況を見る研究であるため、ほとんど治療されなかった。

その結果、最初に参加した399名のうち、実験が終了する1974年まで生き残ったのはたったの74名。

残りは梅毒やその合併症によって死亡した。

黒人が被験者に選ばれた理由

アメリカ公衆衛生局は被験者を探す際、「梅毒治療を知らない上に、教育によって性欲が変動することもない」と考えて、貧しい小作農民の黒人を選んだ。

彼らにとっては不都合ないと思ったかもしれないが、これはあまりにも差別的な判断だ。

また、40年間の間に発見された梅毒の治療方法があるにも関わらず、そのことも無視して続けたということも悪質である。

彼らの中には「実験によって全人類に良い影響を及ぼす」と考えていた研究者もいたようだが、現代に生きる我々から見れば、あまりにも酷すぎる考えだと思うだろう。

なぜ終了するまでに40年もかかってしまったのか

タスキギー梅毒実験の内容は、すぐにでも中止されてしまいそうなほど悪質なものである。

しかし、あろうことかそんな実験が40年も続いてしまったのだ。

そこまで長く続いてしまった理由は、主に2つある。

理由①公衆衛生局・疾病対策予防センターの意思

実験を主導していたアメリカ公衆衛生局や疾病対策予防センターは、徹底的に実験を続けようとしていた。

軍による梅毒治療の指示や公衆衛生局の内部告発を無視するだけではなく、政府が行う性病撲滅キャンペーンを妨害。

内部告発が起きた際には疾病対策予防センターへ主導権が移っていたが、彼らは実験が完了するまで続けようと考えていた。

ここでの「完了」というのは、全ての被験者が死亡して解剖を行うこと。

つまり、実験を終わらせるためには被験者が全員亡くならないといけなかったのである。

理由②ユーニス・リバースの存在

40年も続いた実験では、内容に耐えきれず辞退する関係者が数多くいた。

しかし、その中には最初から最後まで関わってきた人物がいる。

その人物はユーニス・リバースであり、唯一実験を辞退しなかった人物だ。

彼女は被験者が住んでいた地域の黒人社会との親密な関わりもある上に、看護師としての医療知識も持っていたため、実験の最重要人物として関わっていた。

その結果、6ヶ月の予定が40年も伸びることになり、被験者との関係をリバースが築くことで長期的に行えるようになったと考えられている。

理由③被検者の識字能力

実験に参加した研究者の1人は、被験者の識字能力が低かったから続けられたということを述べている。

識字能力がある場合は新聞によって実験の無意味さが分かってしまい、すぐに終わってしまっていただろう。

しかし、被験者の識字能力は低かったために、梅毒の治療方法を知らぬまま40年も続けられてしまったのだ。

非人道的なタスキギー梅毒実験の末路

最終的に、公衆衛生局に勤めていた人物がマスコミに告発することで実験が終了した。

マスコミの報道によって明らかにされた後、非倫理的な実験として国内外から批判された。

研究者は問題ない実験だったとして反論したが、最終的に世論の影響で1972年に終了。

その後の公式な謝罪は約20年後の1997年に行われ、生き残った被検者8名に対して当時の大統領であったビル・クリントン大統領が謝罪した。

現在ではタスキギー大学の博物館にて、実験にまつわる品々が展示されている。

アメリカの黒人医療問題は今なお続く

この実験は、アメリカの黒人に対して多大なるショックを与えた。

その結果、アメリカの医療制度に対する不信感が生まれてしまい、現在でも続く問題となっている。

実際、カリフォルニア大学バークレー校などの研究チームによる調査では、同じ病気の場合でも黒人が白人と比べて20万円ほど医療費が低いという結果が発表されている。

研究チームはその理由として、貧困の差とタスキギー梅毒実験による医療制度への不信感があるとしている。

騙し続けた実験はアメリカ史上最悪の生物医学実験に

ナチスの人体実験であれ、九州大学生体解剖事件であれ、非倫理的な実験には何らかの目的があった。

例えば九州大学生体解剖事件の場合、結核の治療法確立や代用血液の開発などが目的だ。

しかし、タスキギー梅毒実験の場合はどうだろうか。

「治療されなかった梅毒の経過状況を調べること」が目的だったとはいえ、40年も被験者を騙して治療しない上に、有力な治療法が分かったとしても続行したのはあまりにも悪質なものだ。

アメリカでは、この実験をきっかけに被験者を守る法律を作ることになるのだが、2010年に新たな人体実験が発覚してしまうのである。

参考(アクセス日2019年12月29日)

https://www.sankei.com/life/news/191016/lif1910160028-n1.html

https://ja.wikipedia.org/wiki/タスキギー梅毒実験

https://ja.wikipedia.org/wiki/非倫理的な人体実験

https://ja.wikipedia.org/wiki/九州大学生体解剖事件

https://gigazine.net/news/20180713-absolutely-evil-medical-experiments/

https://news.yahoo.co.jp/byline/kazuhirotaira/20191029-00148693/