【思考実験:アキレスと亀のパラドックス】アキレスは亀に一生追いつけない?!

有名なパラドックスのひとつに、「アキレスと亀のパラドックス」というものがあります。

この問題、有名ゆえにすでに数学的に解決法を知っている人も多いのではないでしょうか。

しかし、それで終わりにするにはもったいないぐらい面白い問題なんです。

今回は、「アキレスと亀のパラドックス」について紹介していきます。

アキレスと亀のパラドックス

この思考実験は、古代ギリシャの哲学者・ゼノンが提唱したといわれています。

アキレスと亀のパラドックスとは、簡単に言うとこのような問題です。

アキレスと亀のパラドックス

アキレスというとても足の速い人と、とても足の遅い亀のタルティニウスがいました。

両者は徒競走をすることになったのですが、さすがに勝負にならないと考えたアキレスは、タルティニウスに10mのハンデを課しました。

タルティニウスは、どんなに足が遅くとも進み続けます。

アキレスがタルティニウスに追いつくには、レースが始まったときにタルティニウスがいた10m先まで走らなければなりません。

しかし、その間にもタルティニウスは微妙に進んでいるため、アキレスよりも前にいます。

これを無限に繰り返し、アキレスはいつになったらタルティニウスに追いつくことができるのでしょうか?

この理論でいくと、アキレスはタルティニウスに永遠に追いつけないことになります。

しかし、現実的には人間と亀が競争したら10mのハンデがあったってすぐに人間が追い越しますよね。

一見この理論は正しいように見えるのに現実ではありえない。

それがこのアキレスと亀のパラドックスです。

数学的には答えが存在する

この問題が数学的にややこしい点は、「無限に繰り返せる」という点です。

「アキレスがタルティニウスのいた場所に来る頃にはタルティニウスは少しだけ進んでいて…」という話は無限にできます。

これを「アキレスはいつまでたってもタルティニウスに追いつけない」と誤解してしまうのです。

数学的に考えてみる

簡単のために、アキレスは秒速10m、タルティニウスは秒速1mで進むとします。ハンデは10m。

タルティニウスに追いつくためアキレスの進んだ距離をそれぞれの区間、順番に考えていくと、

アキレスの進んだ距離(m)=10+1+0.1+0.01+0.001+…となります。

この答えは10.111111…となり、数学的にいうとこの値は有限な数に収束します。

アキレスがそれぞれの区間に要した時間も同様に、

要した時間(秒)=1+0.1+0.01+0.001+…となり、これもまた有限の数に収束します。

つまり「アキレスがタルティニウスのいるところまで走り、次の瞬間からまたタルティニウスのいるところまでまた走り…」という計算を無限に行うことで、有限の数が答えとして出てくるのです。

数学的な答えへの違和感

計算上での数学的な答えは一応出ているのですが、これを見て素直に納得できた人は多くはないと思います。

アキレスが走り、タルティニウスがまた微妙に進み…といった試行を無限回行う、ということが現実的に考えづらいでしょう。

そして、前述した計算上では9.999999999…が10に収束するということを意味します。

9.999999999…=10という式は数学的には正しいのですが、現実的な感覚では正しくないと感じる人が多いのではないでしょうか。

時間や長さの最小単位

無限の試行を重ね、ある数に収束する…ということは「時間や長さは、これ以上細かく分割できないという最小単位に到達する」ということを意味します。

これが数学的な「点」の考え方です。「点」には、長さや高さ、奥行きはありません。

でも、「点」が集まると直線(ここでは、アキレスとタルティニウスの距離や追いつくまでの時間)になりますよね?

点はそれ自体が長さや高さを持たないのに、どうしてそれがたくさん集まると途端に長さを持つのでしょうか。

パラドックスがパラドックスを生んでしまう結果となりましたが、これがアキレスと亀のパラドックスの面白いところです。

まとめ

アキレスと亀のパラドックスは数学的には答えが導き出されており、解決しています。

しかしこの思考実験は、新たに「時間」や「空間」の連続性に対する疑問も生みました。

こういった無限論や集合論は、数学者の間でも定義がわかれ、議論されている問題です。

この思考実験の提唱者であるゼノンは、「飛んでいる矢は止まっている」「二分法」など他にも面白い考えを示しています。

興味があったらそちらもぜひ調べてみてくださいね。